大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)2217号 判決

被告人 芝田貞夫

〔抄 録〕

原判決の認定した被告人の業務上過失傷害の事実は原判決引用の証拠によりこれを認めるに足り、記録を精査検討しても原判決の右事実の認定が所論のように誤認であるとは認められない。すなわち原判決の引用する証拠によると、被告人は自動車修理工として自動車の修理及び修理した自動車の試運転などの業務に従事していたものであるが、原判示日時原判示自動三輪車を運転し時速二五粁で千葉市吾妻町三丁目一〇番地先(奈良屋百貨店前)十字路に差蒐り、同十字路を北から東に左小廻りしようとした際同所に設備されてある自動式交通整理信号機の標示が北―南「進め」であつたので同十字路東側北―南の歩行者横断路上を佐藤礼子(当時九年)が北から南に俯向加減に小走りに横断を開始したのを前方約二米五〇糎に接近したとき初めて発見し、急停車の措置を講じたるも及ばず、前方へ二米位スリップし同女を前記自動車の前輪で跳ね飛ばし路上に顛倒させ、よつて同女に対し三カ月の安静加療を要する胸部外傷(肋骨々折に伴う肺損傷両側血気胸形成)を負わせたことを認めることができるのである。そして原判決の引用する司法警察員鈴木幸雄作成にかかる実況見分調書、原裁判所の検証調書によれば、前記十字路附近には有名商店、百貨店が並び、その附近は千葉銀座通の出入口となつている繁華街であつて車馬の交通のみならず、歩行者の往来の極めて多い場所であることが認められるのであるから、自動三輪車の運転に従事する者がこのような十字路に時速二五粁で差蒐り北から東に左小廻りしようとした際同所の自動式交通整理信号機の標示が北―南「進め」であるような場合には、その運転する自動三輪車と南北の横断歩道を歩行する者とが交叉することとなるので、自動三輪車の運転に従事する者としては、単に警笛を鳴らすのみでなく、横断歩道を歩行する者の動静を十分注視し何時でも即時停車することができる程度に徐行する等衝突などによる事故の発生を未然に防止するに足る適宜の方法を講ずべき業務上の注意義務があるものといわねばならない。しかるに原判決の引用する原審証人吉野喜久江、同佐藤礼子の原審公判廷における供述、司法警察員鈴木幸雄作成の実況見分調書、被告人の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書によると、被告人は前記十字路を北から東に左小廻りしようとした際単に警笛を鳴らし、それまでの時速二五粁の速力を幾分減じたのみで横断歩道を歩行する者の動静を十分注視しない儘進行したため、同所の自動式交通整理信号機の標示が北―南「進め」である間に同十字路南北の横断歩道上を北から南に横断を開始した佐藤礼子を発見することが遅れ、その前方二米五十糎に接近して初めて発見して狼狽し急停車の措置を講じたが及ばず前方へ二米スリップして同女を自動車の前輪で跳ね飛ばして路上に顛倒させたことを認めることができるのであるから、被告人は衝突などによる事故の発生を未然に防止するに足る適宜の方法を講じなかつたものであり、業務上の注意義務に違反したものということができる。従つて被告人は右衝突の結果につき過失の責任を負うべきこと当然である。所論の原審証人吉野喜久江の原審公判廷における供述、被告人の司法警察員並びに検察官に対する供述調書、被告人の原審公判廷における供述中それぞれ論旨摘録の供述又は供述記載によつても右の衝突が所論のように被告人の業務上の注意義務の違反によるものではなく不可抗力に基くものであるとは到底認められないし、又所論の原審証人佐藤和子、同佐藤礼子、同調子秀子、同吉野喜久江の原審公判廷における各供述中所論指摘の部分によつても前記十字路の東側南北の歩行者横断歩道上を北―南「進め」の信号中に北から南に小走りに横断を開始した佐藤礼子に所論のような過失があるものと認めることはできない。しからば原判決の事実誤認を主張する論旨は理由がない。

(加納 吉田作 山岸)

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